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【2017/12/13 04:45 】 |
キツネと改札


 改札の横にキツネがいる。
 ……シュールな光景だ。
 キツネは改札の前を行ったり来たりウロウロして、結局所在なさげに改札の横に座り込んでいる。
 行き交う人々はまるでキツネに気づいていないように、改札を通り抜けていく。
 ……いや、まるで、じゃない。多分、本当に見えていないのだろう。
 あのキツネはおそらくアレだ。心霊系だ。見える人にしか見えない、というやつだ。
 今も、何も見えていないらしい女子高生に蹴られて、耳をぺたんとさせて壁際に避難している。
 私は少し興味がわいた。
 改札脇に設置されたゴミ箱にゴミを捨てるふりをして、キツネに近づく。
 そして問いかける。―――心の中で。
『なにしてるの?』
 キツネは突然声をかけられたのに驚いたのか、私の顔を見上げて固まった。
 私はもう一度問いかける。
『なにしてんの?』
『……ご主人様を待ってるんだよ』
 コン、と短く鳴いて、キツネは答えた。
『ご主人様?』
『うん、ボクが守ってる人』
 話ができる人が来て安心したのか、キツネは寄ってきて私の足元に座った。
『そんな大事な人なら、なんで一緒に行かないのよ?
 ついて行って守ってあげればいいじゃん』
『……行けないんだ』
 しょぼん、と黄色いしっぽが下がり、私の足にあたった。
 行けない?
 改札を越えられないってこと?
 足がなくて、どこでもスイスイ入っていくのが、幽霊とかスピリチュアル系の方々の特色かと思っていたのだが。
『ご主人様、ジンジャに行ったんだ』
『……神社』
 一瞬、漢字変換が間に合わなかった。そうか、神社ね。
『その神社に、僕たちのケンゾクは入ることができないんだ』
『……眷族』
 また漢字変換が遅れた。日常的に使う言葉じゃないから、そんなの。
『それで、アンタを置いて行ったわけ?』
『うん。でも、もうすぐ帰ってくるよ』
 キツネは断言して、しっぽをぱたぱたと振った。
 それにつられるように、改札のホームに電車が入ってきた。
 電車から、ばらばらと人が降りてくる。
 キツネが反応したのは、改札から出てきた高校生くらいの女の子だった。
 友達とおぼしき女の子と一緒に、笑いながら駅の出口へと歩いていく。
『じゃ、ボク行くね』
 キツネはその子の後ろについて歩き出した。
 私は少し距離をあけて、キツネを追う。
『……ねえ、待ってよ、その子がご主人なの?』
『そうだよ』
 キツネは大はしゃぎでその子の足元にまとわりつくが、彼女は気にもとめず、時々キツネのしっぽを踏みながら歩き続ける。
『……アンタのこと見えないのね』
『うん、そう』
 キツネはめげずに彼女の靴のヒールを追いかける。そして蹴られる。
 どうして自分の姿が見えない人を守護することになったのか、聞いてみたい所ではあるが、そんなに長い話ができる余裕はなさそうだ。
 キツネを引き連れた女の子たちは、駅前通を東に向かって進んでいく。
 これ以上彼女らを追いかけて駅を離れると、私の予定に支障が出る。
 私は足を止めて、去り行くキツネに最後の問いかけをした。
『アンタ、そうやって頑張ってその子守ってるけどさ。多分、その子、一生アンタに気付くことないよ。
 いいの? ムナしくない?』
 キツネが守護する彼女からは、霊感の類いが一切感じられなかった。それはもう、すがすがしいくらい。
 キツネが、もしくはご主人である彼女自身が望めば、何か方法もあるかと思うが、今のままではキツネの努力は報われることはないだろう。
 キツネは私の声ではない声に、立ち止まって振り返った。
『うん』
 何の問題もない、といわんばかりに、さっぱりした肯定だった。
『ボクがご主人様を好きってことの方が大事さ』
 にっか、と笑って―――キツネの笑顔なんて初めて見たわ―――そしてキツネは私に背を向けて駆けて行ってしまった。
 そんなもんなのかねえ。
 人間であれば、見返りを求めて当然であるのに。
 果たして、あのキツネの純粋な好意は、動物だから持ちえたのか、それとも幽霊だからなのか。
 少し考えたが、答えは出なさそうだったので、私もまた踵を返し、駅へと歩きはじめた。



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【2015/02/08 22:14 】 | 散文(短編) | 有り難いご意見(0)
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