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【2017/12/13 04:50 】 |
孤独の女王


 本を閉じると。
 そこはもうナルニアだった。





 ニトリの勉強机だったはずの机は、ヨーロッパにあるような重厚な木のテーブルに変わり、あたしの部屋だったはずのそこは、まるで王宮の謁見室のようになっていた。

 そして、玉座の上には一人の少女。
 お人形のように美しい少女が、ビー玉のような瞳であたしを見ている。

「……誰…?」
 少女の声はまどろんでいるみたいで、あたしは返事をしていいのか戸惑った。

 そもそも。
 何が起きたんだろう。
 あたしは何でここにいるんだろう。
 ここはどこなんだろう。
 考えても考えてもわからない。

 混乱しすぎて硬直したままのあたしに、少女はやさしく問いかけた。
「あなた……違う世界の人ね。
 エドマンドと一緒、ね」
 エドマンド、という名前には聞き覚えがある気がする。
 そうだ。さっきまで、読んでいたじゃないか。プリンが好きなイギリスの男の子。
 あたしにとっては海外なんて違う世界だけど、どうもそういう意味じゃないらしい。
 少女に促されるように、あたしは数回頷く。
 少女はそれを見て、
「そう」
 と呟いて、懐かしいものを見るように目を細めた。
「大丈夫よ……。
 私はもう、扉が開くまで外には出ないわ」
 扉?
 振り向けば、確かに大きな扉がある。
 彼女の真正面に。
 がっちりと閉ざされた、鉄の扉が。

「その扉が開くのは冬だけ」
 少女の囁きは、氷の風になって、あたしの足首をすり抜けていった。
 よく見れば、この部屋全体が凍り付いているのがわかる―――少女を中心として。


「私は、春を見ることができない」
―――この子。
「私は、夏を見ることができない」
 もしかして。
「私は、秋を見ることができない」

―――白い魔女。


「私の居る所には雪が降り。
 私の歩いた後は全てが凍りつくの」

 少女は歌うように言葉を紡ぐ。

「みんなが私を嫌うわ。
―――当たり前よね」

 冬は作物が育たず、生きるのに苦しいから。

「私を嫌いな人を、私は好きになることができなかった。
 みんなに好かれる春が、夏が、秋が―――羨ましかったの」

 その感情は、誰もが持つものだ。
 誰かに好かれたい、と思うのは。

「悪い心にからだを乗っ取られて、私は戦いを起こしたわ」

 それを悪と呼ぶのか。
 それが悪だと判断したのは誰だ。

「戦いに負けて、私はここに封印された。
 扉が開くのは冬だけ。

 ……でも、これで良かったのよ。
 世界は平和になったんだもの」

 そう言って、少女は諦めたように笑った。
 きれいで、まだ何も知らないような外見に、その表情はひどく不釣合いで、あたしは胸が痛くなった。

 それって。
 それって、この子が全部悪いの?

「あ、あたしは」

 だから、あたしは声を張り上げた。
 彼女は少し首を傾げる。

「あたしは、雪が好き」

 やっと絞り出した精一杯の台詞がこれって、なんか情けない。
 あと、こんなのいつも雪かきしているお父さんに聞かれたら怒られる。
 それでも、伝えなくちゃと思ったんだ。

 少女は驚いたような顔をして、それから微かに笑った。
 さっきみたいな笑い方じゃなくて、はにかんだような照れたような笑顔だった。

「ありがとう」

 少女の声は吹雪になり、あたしの髪をかきあげる。
 同時に、テーブルの上の本が風でめくれ上がる。


 一瞬のできごとだった。
 目の前の全てが、玉座が、少女が、扉が、それこそ部屋自体が、開いた本に吸い込まれた。
 残ったのは、ニトリの机と、あたしの部屋と、机の上の本。
 あたしは呆然とそこに立ち尽くした。


 机の上の、開いたままのページに目をやると、おそろしい魔女が少年にプリンを勧める挿絵が描かれていた。
「……こんなこわい人じゃなかったよ」
 あたしは呟いて、本を閉じた。

 もうナルニアには行けなかった。



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【2014/04/24 09:34 】 | 散文(短編) | 有り難いご意見(0)
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