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【2017/12/13 04:48 】 |
花びら姫



高い塔に閉じ込められたお姫様が望んだものは、

王子様ではありませんでした。








 彼が呼び出されたのは、冷たい牢獄の中でした。
 彼を呼び出したのは、まだ年若い少女でした。

 彼は悪魔でした。

 悪魔は少女に問い掛けました。
「望みは何だ?」

 少女は答えました。
「今夜一晩、あたしの話し相手をして」

 悪魔はとても嫌そうな顔をしました。
「……子守りのために悪魔を呼び出したのか」
「子守を悪魔に頼んじゃいけない、とは書いてないわよ」
 少女は魔方陣が描かれた古いふるい紙を、ひらひら悪魔の鼻先に突きつけました。
 悪魔はさらに嫌そうな顔をしました。

「そんなもの、神々にでも願えばいいだろう」
「神様に、もう十年近く祈ってるけど、出てきてくれたことも、相づち打ってくれることも無かったわ。
 でも、あんたはここに来てくれた。
 ―――ね、お願い、話を聞いて」

 見れば少女は、こんな所には不釣合いな、知性の宿った瞳をしていました。
 彼女に狂った様子は、少しも見受けられませんでした。
 だから、少女が続けて発した言葉に、悪魔は何か違和感を感じたのでした。

「そしたら、あんたにあたしの右足をあげる」






 月が雲に隠れると、牢の中は真っ暗になりました。
 そして、自分達が話をしなければ、ここはとても静かだということに、彼は気付きました。

「随分、厳重に隔離されてるじゃないか。
 高い塔の上の檻に、窓の下は海しかない。
 お前、どんな極悪人なんだ?」

「あたし、第二王女なのよ」
 悪魔の問いに、少女は淡々と答えました。誇るでもなく、卑屈になるでもなく、ただ事実を述べたようでした。
「あたしの母さまが第三王妃で、」
 淡々と。
「父さま……国王陛下がお風邪を召して、母さまが運んだ水差しに、毒が入っていたそうよ」
 ただ、淡々と。
「きっと、毒を入れたのは、母さまでは無いけど。
 母さまは処刑されて、あたしはここに入れられた。
 多分、あたしはここから出ることはないわ」

「……で?」
 彼が促すと、少女は「うん」と頷きました。
「だから、ヒマなのよ」
「アホか」
「アホはあんたでしょうが。こんなもんでホイホイ呼び出されて」
 再び目の前にぴらぴら魔方陣を突きつけられ、悪魔はムッとしました。
「しょうがねえだろ! それが契約ってもんなんだよ!」
「やーい、バーカ」
「うるせえよガキ!」

 子供のように。
 そうやって、悪魔と少女は話をしました。

 そうして、日の光が窓に差す頃に、悪魔は空中に消え、少女の右足は動かなくなりました。






 次の日に彼を呼び出したのも、やっぱり彼女でした。

「……またお前か」
「なんか文句ありそうね」
「あるに決まってんだろ」
「知ったこっちゃないわよ。
 今日の願いも一緒。あたしの話し相手をして」
「やっぱりそれか!」
「それ以外に何があるって言うのよ」
 胸を張って言い放つ少女に、悪魔は困ったような顔をします。

「……あるだろう。
 ここから出してくれ、とか。
 母さんを陥れた犯人を殺してくれ、とか。
 自分をこの国の女王にしてくれ、とか」

「……ごめん、でも、本当にないのよ」
 少女も困ったような顔をしました。
「昼はずっと本が読めるし、夜はあんたが話をしてくれる。
 これ以上楽しいこと、ないわ。
 母さまのことは、いつか姉さまがなんとかしてくれる」

「まともなものも食えないのに、そんなことが言えるのか」
 それは嘘だ、と悪魔は言います。
「生体を維持できれば、食事にこだわる必要は無いでしょ」
 少女は不思議そうに首を傾げます。

 平行線でした。

 そして、少女は悪魔に願いました。
「あんたにあたしの左手をあげる。
 だから、お願い」







「姉さま……ってさっき言ったな」
「うん、姉がいるのよ、第一王妃の娘だけどね。
 バカみたいに正義感が強くて、弱い者いじめとか絶対に許せない、無駄に熱い人」
「褒めてんのか馬鹿にしてんのか、わからんな」
「褒めてるわよ。あたし、姉さまのこと好きだもの」

 床に散らばる、本や資料や文献の中から、少女は何やら一枚拾い上げます。
「昼間、姉さまが持ってきてくれたわ。
 これ、嘆願書。あたしをここから出してくれって」
「へえ」
「これを第一王妃に提出したって言うんだから、姉さまってば馬鹿正直で感心するわ」
「……褒めてるのか?」
「褒めてるわよ。あたしにはそんな根性ないからね」

 少女は一度、その書状を見直して、それから悪魔に向けました。
「さて、第一王女直筆の嘆願書でもダメだった。
 あたしをここから解放させるためには、あと何が必要だと思う?」
 悪魔は呆れた口調で答えます。
「そんなもの、俺の魔力でここを壊せばいい」
「そういうズルは無しね。
 あと、第一王妃と第二王妃は動かせないと思って。だから『第一王妃か第二王妃に牢を開けさせる』も無し。
 それと、姉さま……第一王女にこっそり牢を開けてもらうとかも、その後見つかったらまた牢に逆戻りだから無し」
 上げられる条件に、彼は面倒くさそうに顔をしかめました。

「なんだそりゃあ。どうしろっていうんだ」
「だから、考えてみてって言ってるのよ。
 頭って使わないと、どんどん衰えるって城の占星術師のじいさんが言ってたわよ」
「俺には関係ないだろ」
 悪魔がお手上げのポーズを取ると、少女は鼻で笑いました。
「そうやって思考を惜しむから、どんどん馬鹿になるのよ」
「本当に腹の立つガキだな、お前は」
「だから、そう思うなら、ほら、考えてみてよ」

 渋々、といった様子で、悪魔は頭を働かせます。
「ああ……そうだな。
 どうせ、お前の母親も、子飼いの領主のひとりやふたりいるのだろう?
 だったら、そこからお前は無実だという噂を流せばどうだ」
「噂?」
 少女は好奇心に満ちた瞳で、彼の目をのぞきこみます。
「たかが噂、と思うかもしれんが、人の声というのは恐ろしいものだ。
 始めは小さな領民の噂程度であっても、広がって国民全てがそう言い出したら、それは民意となる。
 国を治める者が無視できるものでもないだろう」
「……そうかしら」
「そうだ。
 お前、魔界で一番早い情報網を知っているか?
 魔女の井戸端会議が一番早くて、その上正確なんだぞ」
 彼は真顔でしたが、少女はふきだしてしまいました。
「なにそれ。ふふ、魔界も人間界と変わらないじゃない。
 やっぱりあんた、面白いわ!
 ねえ、もっと話してよ」
「ああ? 変な奴だな……」

 その日、二人は大人のように難しい話をしました。
 この国の経済の問題点、王制の限界について、魔界の構造とその矛盾について。

 そして、再び日が昇る頃には、悪魔は魔界に帰り、少女の左手は動かなくなりました。






 カラン、カランと鐘が鳴ります。
 処刑を告げる、朝の鐘です。

「……望みを言え」

 日の光の下の悪魔は、まるで陽炎のようです。
 ゆらゆら、ゆらゆら。

「死ぬのが怖いわ」

「そうだろう。生あるものは死を恐れる。
 死にたくない、と言え。
 助けてくれ、と言え」

 悪魔の誘惑に、少女は苦笑しました。

「でも別に、死にたくない訳じゃないの。
 だって、みんないつか死ぬんだもの。

 だから、お願い。
 最期まで、あたしと一緒にいて」

 少女は笑っています。
 悪魔は泣いています。

「……アホだろう、お前」
「あんたには負けるってば」

 少女は悪魔に右手を差し出しました。
 彼女の左手が、だらり、と揺れました。

「最期にあたしの魂をあげる」

 まるで、玉座に君臨する女王のように。








 ある国に、王様と、三人の王妃様がおりました。

 先の二人の王妃様は、最後の一人の王妃様と仲が悪く、王様は困っておりました。

 ある日、王様は風邪をひきました。
 王様が看病を言い付けたのは、三番目の王妃様でした。
 三番目の王妃様は、喜んで王様のお世話をしました。

 それを妬んだ二番目の王妃様は、王様に捧げる水差しに、こっそりと毒を入れたのでした。

 王様は死んでしまいました。

 犯人とされたのは、三番目の王妃様でした。
 なぜなら、三番目の王妃様のお部屋から、毒の入った小瓶が見つかったのです。

 三番目の王妃様は、処刑されてしまいました。

 処刑が終わった後、一番目の王妃様が、二番目の王妃様に言いました。
「私は本当に王様を殺した犯人を知っている。
 だって、第三王妃の部屋に小瓶を隠したのは、私だから」

 二番目の王妃様はたいそう驚いて、どうか誰にも言わないようにお願いしました。
 一番目の王妃様は、笑ってこう言いました。
「いいわ。
 その代わり、あなたには私の補佐をしてもらうわ。
 私はこの国の支配者になる」

 こうして、一番目の王妃様はこの国を治める女王様となり、二番目の王妃様は女王様を助ける大臣になりました。


 処刑された三番目の王妃様には、娘が一人おりました。
 娘はしばらく、塔の上に囚われていましたが、一番目の王妃様が女王様になったその日、見せしめに処刑されることになりました。

 娘は処刑台の上で、泣きも怒りもせず、ただ女王様を真っ直ぐ見つめていました。


 首を落とされた娘は、血を流す間もなく、黒い花びらになって消えたそうです。


 人々は噂しました。
「あの娘は、実は天使だったのではないか?」
「あの娘は、実は神様の生まれ変わりだったのではないか?」

 女王様は娘についての噂を禁止しましたが、人の口に戸は立てられませんでした。



 やがて、この国は革命が起きて、滅んでしまいました。

 革命軍の先頭には、いつも、年若い少女がいたといいます。
「妹を女王に殺された」と語る少女が。
 革命の後、彼女がどうなったのかは、わからないままです。





 遠い昔。
 本当のことは、もう誰も知りません。





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【2012/10/28 02:49 】 | 散文(長編) | 有り難いご意見(0)
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